第三の男

生来、「風とともに去りぬ」とか、「ティファニーで朝食を」とか、いわゆる「映画ファン」にとって有名な映画には、本当に面白いの?と食わず嫌いを発揮してしまう気質だから、当然のごとく、そこに部類されていた「第三の男」を、今回オーソンウェルズ特集っていう流れで、漸く観ることに成功した。結論から言ってこの映画は、監督はウェルズでないにしろ、完璧にウェルズの一人勝ちのような映画だと思われ、ウェルズ特集で観るのは非常に適切な選択であったと僕は思う。


The Third Man
1949 イギリス
ジョセフ・コットン、オーソン・ウェルズアリダ・ヴァリ
脚本 グレアム・グリーン
音楽 アントン・カラス
撮影 ロバート・クラスカー
監督 キャロルリード



正直フィルムノワール大作と期待していた私は、まずは気の抜けたようなエビスビールのテーマで拍子抜け。チャララランチャララン。今やJR恵比寿駅のテーマとなっているこの曲はそもそもこの映画のためにアントン・カラスというツィター(某有名ブログではなくて、オーストリアの民族楽器)奏者が演奏したものだったそうだ。映画は大いなる謎を持ち、人が死んでいきながらも、この音楽と、何ら陰を持たない主役ジョセフコットンの非常にわかりやすいキャラクターのせいで、どことなく軽く、可笑しいという、この違和感。ちょっとこういうリズムのソフトなノワールも面白いなと思う反面、妙に緩い空気で、(火曜サスペンス的な)ウィーンの観光映画じゃないかという、大いなる疑念もわいてきたところ、オーソン・ウェルズ登場で、急に緊張感ゾクゾクになっちゃう。もの凄い存在感、まさに怪優!格好いい。

観覧車のシーン、ウェルズは「スイスの同胞愛、そして500年の平和と民主主義はいったい何をもたらした? 鳩時計だよ」と言い残して去る。いやあ格好いいなあ、この台詞どこかで使いたいなぁと思っていたらこれすらもウェルズの提案なのだとか。この映画を観たことがない人でも体外の人は観たことあるんじゃないかと思われるおぞましいほどに有名なラストシーン、そこにはウェルズはいないにも関わらず、ウェルズが落とした陰によってこそ輝きを増していたのだった。この映画は、完全にウェルズが食っている!恐るべし。