友人の結婚式

久方ぶりに会う同期研修医の結婚式二次会に行ってきた。彼は同期の中でも随一のクールな切れ者という印象だった。僕は今でも忘れない、初めての救急外来当直の日、看護師に尋ねることもできずにもじもじしていた気弱な僕にクールに点滴の作り方を教えてくれたことを!そして点滴を作りながら、僕に背中を向けながら、「これぐらいできないと馬鹿にされちゃうよ」と言い放ったときのことを!あのときの君の眼鏡はまぎれもなく鋭い光を放ち、僕を射した!
それ以来僕はちょっと彼には頭が上がらないというか、大分慣れてきた頃でも、同期の中で緊張を感じる人だった。それだけに今回誘われたのは驚きというか、光栄というか複雑な感じで向かったが、いざ目の前にして案の定どぎまぎしてしまった。そもそも何て声を掛けようか。彼と僕は結局のところどこまで打ち解けていたのだろうか。何を共有し、何を共有していなかっただろうか。そもそも何の意図で僕が呼ばれたんだろうか。そんな思いの巡りの中で「おめでとう」と言ってその先が続かず、相手が産婦人科医になったことから無理矢理ひねり出した一言に言うにつけ「無痛分娩ってどう思う?」って言って笑いはとれたもののおよそ似つかわしくないことを言って赤っ恥をかいてしまいました。彼は「よく来てくれたね」とだけ言った。
ところが、その後会が進み、非常に愛らしいすてきな奥様が仲間たちと歌って踊るコーナーがあって、それがとても楽しくてみんな非常に盛り上がったのである。佳境にさしかかり、会場もいよいよ異様な熱気になってきたかと思うと、ついに矢も盾もたまらない感じで彼も踊り始めた。常にクールだと思っていた彼が、目を細めて、彼女をいとおしくてたまらないように見つめながら、やや不器用にしかしもうそれはもうノリノリで目の前で踊っていたのである。曲はしかもABBAのダンシングクイーンだ!
何とも言えない幸福感と、さらに高まる熱気の中で、僕は何か勘違いしていたのかもしれないと思った。彼も鋭い眼光の奥で僕に緊張していたのかもしれない。無論それも勘違いなのだが、こっちの勘違いの方が僕も幸福である。今日は来てよかった。彼はぎこちなく彼女を抱え上げ、キスをした。