最近ひっそりと観ていた映画の感想

長江哀歌(山峡好人) ジャ・ジャンクー監督

なんかつげ義春とかぶるんだよね。常にランニングシャツで過ごすお世辞にもイケメンと言えない主人公が妻子を捜しに山峡にやってくるんだけども、妻子の家はとうにダムに沈んでしまって、お金がないので、労働しながら妻子を捜す、そんな話。淡々と流れる時間の中で、背景に突如UFOだの、ぎょっとするものが登場してくるっていうちょっと屈折したスパイスが利いていて飽きない。ただ、この底辺のような人たちがたくさん出てくる旅日記的な展開と、その屈折した進行は、ちょっとつげ義春っぽいなと思うのだけれどどうでしょうか。つげが描いたような風景はまだまだ中国には残っているんだなあと。登場人物たちは国家にあらがいようもなく、ただ淡々と生きて、街は沈んでいく。
先述のUFOが登場した途端に、話が転換するという流れの素敵な違和感も実に味わい深い。ここから話は夫を探しにきた妻の話に変わる。しかしその話よりも、その女の水の飲みっぷりや、扉の壊し方の威勢の良さや、背景の建物(何と実はロケット)などについ目がいってしまうという。こういうところもつげっぽいんじゃないか。
ものすごくリアルなような、ものすごく非現実的なような、中国版つげ義春ジャ・ジャンクーはこういう淡々とした映画の進行でありながら、飽きない作りになっているというところに強く才能を感じます。

ブッシュ オリヴァー・ストーン監督

何でこんなの観たんだって感じですよね。ちょっとネタになるかなと思ったんですが、ここまで映画の主人公に共感できない作りになっているのはいかがなものかと思う。ひたすらむなしくなった。子ブッシュが大統領になって4年間で話が終わるんだけども、あとの4年間って何もしてないの?と思ってWikiってみると、やっぱり何もしてなかったていうのはウケた。次期大統領選で2年近く話題がさらわれていたんだねぇ。

スタートレック J.J.エイブラムス監督

これもダークナイトの再来くらいを期待して観に行ったものの、そこまでではないかな。まあ白熱はしたし、手に汗は握った。ファンにはたまらないものがあると思うというのは自分自身がダークナイトで感じたことから外挿して十分予想できた。どうでもいいが、時間を遡れるというのは後年にシリーズものの設定が大きく変わっても、時間を遡って歴史が改変されたと言ってしまえばいいっていう技を、ここまであからさまに利用して来ているシリーズも珍しいと思う。さらにどうでもいいが麻生さんが若ければこの「加藤」に似ていたかもしれない。

ぐるりのこと。 橋口亮輔監督

自身もうつであったという橋口監督の久々の復帰作、うつがテーマなのでHush!のような快活な映画ではないが、前評判通りいい映画だった。余計なひねりはなくストレートに感情が入り込んでくる直球勝負の映画だ。リリーフランキー木村多江というのも異様に絶妙だ。日本現代凶悪犯罪史とともに振り返る夫婦の歴史という発想も凄いと思う。思えば幼い児が標的となった事件が多かったものだ。本当、どうでもいいが、怪優 寺田農がやや不完全燃焼なのは個人的には残念だ。
Hush!のときも思ったが、会話を基軸として物語を築いていけるという意味で日本映画界では希少な存在と言っていいと思う。今後も新作が楽しみです。