夏時間の庭

先日、某友人の結婚式に、日経新聞の「美の美」の関係者がいたので、「このあいだ映画監督の特集やってましたよねほらえーっと」と言って、その超有名映画監督の名前が出てこずに僕がもじもじしていると、彼女がさらっと「アサイヤス?」と言った。正解はミゾグチであって、なんでミゾグチがアサイヤスやねんと、思い出せない僕が悪いのを棚上げにして突っ込みをいれそうになったが、ああ、そうか、アサイヤスが美術館に関する映画を撮ったから「美の美」に関わったのかもしれないのかと思い至って調べてみると、その映画は「夏時間の庭」であって、今テアトル銀座でやっていた。
その結婚式のあとそのまま観に行った訳だが、観る前に「なんでミゾグチがアサイヤスやねん」と偉そうなこと言っておいてあれなんだけども、僕は「デーモンラヴァー」のアサイヤスしか知らなかったということに気づいた。「イルマ・ヴェップ」は高校くらいのときに観たような気がするけど忘れてしまったし、「冷たい水」にいたっては観る機会すらなかった。つまり僕の中ではとってはあくまでデーモンラヴァーのアサイヤスであって、あんなハチャメチャな映画を作るアサイヤスなのだということをご理解いただきたい。マギー・チャンと結婚して離婚したことすらも知らなかったんだ!
だから、「夏時間の庭」はオルセー美術館20周年企画の映画なのだが、よくもまあこんな男にオルセーの人も映画を頼んだものだ思った。とても静物をちゃんと撮るような男ではないだろうと、そういう勝手な僕の「デーモンラヴァーの」アサイヤス像があって、逆に映画の内容が非常に興味深かった。何かオルセーの人がやっぱり頼むんじゃなかったって感じの映画になるんじゃないかと内心ヒヤヒヤ、ワクワクして観に行った。

ところが、フタをあけてみると本当に素晴らしい映画で、思わず泣いた、泣かされた。この素晴らしさは何と言えばいいかよくわからないが、まずはオープニングの、過不足なく登場人物の心理学的状況及び、美術品を紹介しつつ、急激に最後にトーンが落ちるというシークエンスの見事な緩急。何か夏目漱石の「明暗」をすら思い出す。あるいは、お手伝いと甥の挿話をさらっと投げ込んでくる辺りとか。
ラストのシークエンスはまさかっていう感じで、孫に視点を当てるというのが格好よくて、それでもってクレーンだから、ああミゾグチじゃん!っていうオチです。いや本当にヤラレタって感じ。

映画の余韻にひたりながら、自分の家はどうなるだろうかと思わず考えてしまった。やはり子供のためにおいておこうと思うのだろうか。「ハッシュ!」で田辺誠一が「こんな狭かったなんて」と整理した実家のあった土地を観てつぶやき、泣き崩れる。あれを思い出した。