我が青春の二大巨匠夢の競演 「ブラックダリア」

そもそも映画を好きになったのは中学生の頃にブライアン・デ・パルマの「ミッション・インポッシブル」を観て、何か変だと感じてからかもしれない。ただのアクション映画を観に行ったはずが、デ・パルマ特有のカメラの変わった動かし方、何と言うか若干いやらしい、ぞくぞくする感じ、に直感的に反応したのである。それ以来その歴然たる違いは何なのか考えて今まで映画を観て来たような気もする。デ・パルマは必ずしも素晴らしい映画監督とは言いがたいが、たまにどうしようもなくうっとりするような、あるいはにんまりするような、彼にしか出せないあの「覗き見」的な恐怖感覚がありそれこそが、所謂「デ・パルマニア」の最高に嬉しくなる瞬間だ。殺しのドレスの美術館、ボディダブルの覗きや、キャリーの血まみれのプロムや、レイジングケインの裸足や、スネークアイズのオープニングや。

ジェームスエルロイの途方もない暗さにはまっていたのは高校時代だ。暗黒のLA四部作、ロイドホプキンスシリーズ、アメリカンタブロイド。暗く生きることが、あるいは正義のために生きるということのあまりの暗さが、いかに鮮烈に格好いいのかということをひたすらに味わった。僕の高校時代全てが暗かったようにすら思える。その後に読んだレイモンドチャンドラーもエルロイの前には霞んで見えた。大学時代のアメリカ旅行はまずLAを目指し、僕はLAを普通の観光客からは想像できないくらい暗い視線で眺めたものだ。そんな中にLAのMedical Examinerとしてマリリンモンローを解剖したことで知られるある日本人に会えたのはかなりの幸運であったし、僕の人生にさらなる影を落としているが、それはまた別の話。

そんな人生の師?デパルマとエルロイが組んだのがブラックダリアである。こういうときファン心理としては喜ぶと思うが、しかし僕はちょっとやな予感がしていた。デパルマがエルロイの暗さに到達できるとはあまり思えない、デパルマの魅力とエルロイの魅力は全く噛み合わないと思ったからだ。確かフィンチャーが撮るという噂だったんだが、どうしてこういうことになったんだろうか、僕の中の二大巨匠がお互いに潰し合ってしまうかもしれないと思うと恐ろしくて敢えて見ないようにしていたが、今回はTSUTAYA店頭に飾られていて、思わず、実にあっさりと手にとってしまった。

観てみるとまあ以外にまとまっていて、デパルマ的見せ場もちゃんと用意されていたが、お互いのアクはやはりとれていて、普通な映画になっていた。エルロイ映画としては『LAコンフィデンシャル』に及ばないし、デパルマの代表作というわけにもいかないだろう。結論として残念な感じであるが、観て損という程でもないというやや不完全燃焼な感じだ。個人的にはデビットフィンチャーが撮っていたらどうなったか気になるところでもある。ところでデパルマ師はこのあと、偉大なる(?)リダクテッドという映画を撮ることになり、私はマニアとして外すことができずに昨年ひっそりと観に行ったのだが、これもまた別の話ということで。