小泉今日子の無表情 トウキョウソナタ

eupketcha2008-11-02


待望の黒沢清の新作。カンヌある視点グランプリ。有楽町ビックカメラの上の映画館で観てきた。

家族崩壊というやや古典的な題材である。リストラされるお父さん、米国兵に志願するお兄さん、給食費を翳めとり、かなり不純な理由からピアノを習い始めるボク、そして小泉今日子はつねに無表情。ときに滑稽であったりする(「大人は判ってくれない」へのオマージュとしての小学校のシーンにしろ)、(黒沢らしい)長回しのシークエンスが、ただ単調に並んでいるように見えて、実は着実に一定のリズムでもって映画そのものを「沈没船のように」沈ませていっている。そのデクレシェンドは映画の最初の窓の外の嵐で予感させることからはじまって、実に映画の前半2/3にいたるまで途切れなく一定の速度で続いているのだ!そして、その下降の中に黒沢らしい「恐怖」を想起させるショットがテンポを整えるように確実に打たれている。たとえば黒須の娘が階段に上りながら見せる視線であったり、小泉今日子が振り上げた両手であったり・・。後半1/3映画が暴発する。その頂点と言える、夜の海のシーンはひたすらに美しく、小泉今日子の表情に震える。そしてあのラストは泣けた。

いつも割とぶっ飛んだ、超越したラストで、何というか、観客を置いていってしまう監督だと思っていたが、今回は地に足が着いていて、どんな人にも勧められる映画だと思う。おいしいけどあまり有名でないケーキ屋さんでも見つけた気分で映画館をあとにした私は、夜の皇居を眺めながら本郷の家まで帰った。

ところで、トウキョウソナタの家族の住む家は僕が大学一二年を過ごしたキャンパスのある街だ。電信柱に思いっきり地名が書いてある。横を通る電車は京王井の頭線だ。思わず翌日その街に行ってみたら、映画に出てきた風景を見つけた。あの家は、今はもう取り壊されて、モデルルームのようなものがたっていた。