お台場に『アキレスと亀』を観に行ってきた。

アキレスと亀」 監督・脚本・編集・挿入画/北野武 撮影/柳島克己 音楽/梶浦由記 配給/東京テアトル、オフィス北野 2008

もう観てから少し時間が経ってしまいました。9月のある休みの日に、チケットの割引券の関係でわざわざお台場まで足を伸ばしました。公開してから間もない、休日であるにも関わらず、映画館には僕も含めて6人くらいしかいませんでした。映画の内容は北野武の言わば自画像のようなものです。もし自身がアーティストに身を窶したら、こんな風であっただろうと想像しながら撮ったかのようなものです。もちろん彼はコメディアンでありましたし、飛ぶように売れた男であったわけであり、普通に考えれば彼がアーティストであったとしても十分才能は開花していたと予想されるのですが、そこはそれ、彼自身の持ち前の照れ屋で謙虚な姿勢が表出して、一生浮かばれないアーティストという形になりました。そういう武のナルシスティクでノスタルジックな世界を描く、一言で言うとかなり独善的でキワモノ映画に陥りやすい前提で撮られた映画であったわけですが、すっかり手慣れた北野組の撮影/演出/編集、鏤められた「アート」のうきうきするひらめきの数々、おなじみの役者たちの演技などなどを上手に使って、意外にも爽快で飽きない一代記に仕上げていました。少年時代のシークエンスが特にお気に入りで、画商のぎらつくような悪い笑顔とか、鏡にうつる壁の絵とかの怖さだとか非常に見事だと思いました。かつてのギラついた実験的な武映画の魅力はすっかり衰えましたが、安定した名匠といった風情になりました。ただ中盤後半とややだれ、上昇するカメラにすべてを任せてしまったかのように終わらせたラストが個人的にはいただけませんでした。全体としてまとめるにはああするしかなかったのかもしれませんが。後方の座席の女性は映画中泣いていたようです。お台場では意外にも野原があって、コスモスが奇麗でした。大江戸温泉物語でゆったりしてから帰りました。