エスター・カーン めざめの時

eupketcha2006-07-28

初めてアルノー・デプレシャンの映画を観ました。トリュフォー的な、フランス映画的な皮肉と暗さに満ちた前半部分と、カサヴェテスの「オープニング・ナイト」と、ある種のハリウッド的なサクセス・ストーリーにオマージュを捧げたかのような後半部分とがはっきりと二つに分かれる構成になっている、いかにも私はカイエ・デ・シネマで映画学びましたって感じの人が撮ったんだなという印象の、分節的で、映画史を意識した、それゆえに一貫性と愛嬌に欠ける、そういう映画でした。フランス映画と、アメリカ映画が共存する、イギリス映画というような不思議な映画。


暗くて鮮烈な印象の強い前半部分、父親と別れるまでは、トリュフォーのように、淡々ではありながらかなり衝撃的な鮮烈さをもったショットをタフに次々と並べてあって結構僕は好きです。それが、後半イアン・ホルムが出てきて、急に生気を失うというか、まったりとしてくる。ラストのシーンは完全に「オープニング・ナイト」だと思うんですが、カサヴェテスなので当然カタルシスあるのですが、このカタルシスがあの暗い前半部分とどう関連しているか考えたときに、そこに連結を求めるのには困難さを感じました。


DVD特典監督インタビューにてデプレシャン本人も強調していましたが、この映画の最大の発見は、エスター・カーン演じるサマー・フェニックス(リバーやホアキンの妹。一体この家はどういう教育してるんだろうか。)の独特な魅力でしょうか。美人だけど、何か暗くて、笑わなくて、すぐ切れるという。監督の「スターの誕生」は言い過ぎですが、この映画にはこの人しかありえなかったと言ってもそれは問題ないでしょう。


余談ですが、サマーのインタビューもあって、これがハリウッドの女優とは思えないインタビューベタでした。やたら演技についてとか映画についてぺらぺら喋る女優ばっかで何だか嫌だなと思っていたのですが、サマーはそのお仲間でなくてよかった。しかし一方で、これくらいしゃべれないとハリウッドでは生きていけなさそうだなと思ったら、案の定これ以降ほとんど出演作なく、ベン・アフレックと結婚してしまっていました。