都会のハクビシン

今日のちょっとした自慢はハクビシンをよく見かけるということである。ネコ目ジャコウネコ科ハクビシンハクビシンは、SARSの媒介者でないかと言って一時期悪名を轟かした、猫みたいな穴熊みたいな動物である。恐るべき繁殖力を誇るため、ジンベイザメやら、メコンイルカやら、アムールトラやらありとあらゆる動物が絶滅の危機に瀕するというニュースが絶えない昨今において、駆除の話題ばかりが取りざたされるちょっぴり可哀想な生き物である。
その繁殖力もあってか大都会東京のど真ん中にもたくさんのハクビシンが暮らしているらしい。狸やイタチや梟とともに育った超絶田舎ものの私でも見たことなかったハクビシンが、どういうわけか東京に来てから頻繁に出くわしている。
一度目は昔住んでいた寮の前で4頭の家族連れが仲睦まじく塀をよじ登って隣の豪邸風建物に入っていった。当時はまだサーズサーズと叫んでいたから、そのうちこの家から重傷感染症死亡者が出るかもしれないと内心ドキドキしていたが、んなこたあない。
二度目は一年前くらいに湯島を歩いていたら(いかがわしいことをしていたわけではない。決して)、それこそホテル街のあたりちょろちょろしていた。こんなところにも。いやむしろこんなところだからこそ。
そして昨日は家の前を横切る生物がとても猫には思えずに思わず走って追いかけたらハクビシンであった。僕に驚いたかハクビシン道路に飛び出し、あわやランドクルーザーに弾かれそうになって、思わず僕も「きゃあ」と叫びそうになってしまったが、運転手のブレーキさばきにより一命をとりとめた。おかげでスポットライトに照らされたトレードマークの白い鼻筋がよく見え、ああやはりそうか。ハクビシンは一瞬恥ずかしそうに道路から引き返してきたが、またすばしっこく塀をよじのぼり、隣の家へと消えていった。
この大都会の寒空で(九月の割に寒い気がする)、よく生きているなと、(繁殖力が多くて駆除されるということは棚上げにして、)一人ジーンときてしまった。「がんばって生きろよー」悔しいのはこの話を誰も信じてくれないということである。いや、本当に見たって。