どろろ

どろろ(1) (手塚治虫漫画全集)

 監督塩田明彦、主演妻夫木聡柴咲コウ(この役は宮崎あおいの方がいいと思う)で映画化されるらしい、手塚治虫の妖怪もの「どろろ」。映画公開前に読んでみた。(僕の大学の医学部図書館には手塚治虫全集があって、その前のソファは密かにこの建物の最大の人気スポットになっている。)


 結論から言うと、一巻は最高に面白い。四十八の妖怪に体の部分をわけられた主人公百鬼丸。その体をすべて義手義足で補う天才医師。天下の盗人、実は??などろろバットマンやらシェークスピアやら日本昔話やらをごちゃまぜにしたような、あまりにも荒唐無稽なストーリーをあっさりと展開して、悪びれず、英語まで飛び出す不良時代劇を平気でやって、それでも腹が立たずに小気味がよく読めたりするなんていうのは、この人にしかできないなあと関心してしまう。娯楽の天才。理屈ぬきに百鬼丸格好いいー、どろろ可愛いーという方向に持って行くのが実に上手い。背景を彩る個性豊かな妖怪たちも明らかに水木しげるのパクリなのだが、娯楽のためならあらゆる手を尽くすのは手塚さんの常套手段だろう。むしろ水木しげるよりいきいきとした妖怪像を描いていると言えなくもない。


 しかしどうしたわけか、2巻終盤あたりからそのテンションが急速に減衰。妖怪は毎回動物の化身で個性がなくなり、どろろと百鬼丸の愛憎劇も早くもマンネリ化。で、あれよあれよと言う間にたくさん置いてあった伏線を歳末大処分みたいに処分してかなり強引に幕を引いてしまうのである。手塚自身もやる気をなくしてしまったと回顧しているが、しかしこれでは中途半端に期待をもたされた読者としてあまりにあんまりだ!


 「どろろ」のテンションの下がりっぷりは目に余るが、手塚治虫文庫を読んでいたりすると、この人の漫画は一貫性がないことが多いし、やる気があるとことないとこがはっきりしている作品が他にもたくさんある。


 ところでご存知の通り手塚治虫は医学部出身だ。医学部というのは6年間で、結構多ジャンルにわたって多くのことを勉強させられる。『医学部学生は「どんなジャンルでも要領よくこなす(少なくとも試験にうかる/レポートを間に合わせる)能力」があってこれだけは他の学部の学生に勝っている』と、理学部の学生など他学部生も研究室に在籍させている某教授が語っていたという話を最近またぎきしたことがある。確かに医学部にいるとやることが多くて、どれ1つ身に付いた気にはならないが、同時に2つのことを勉強したりするとかいうのは比較的平気になる。これは色々手広くやれるという医学部出身者の大きなアドバンテージを形成するが一方で、1つ1つが薄まってしまう(薄くなっても気にしない)というデメリットも産むことを忘れては行けない。翻って手塚治虫の漫画を見てみると、なるほどこの人は医学部出身者だと実に納得できるということが今日私が最も言いたいことである。僕もどんな進路をとろうと、そういう風になる気がするし、周りの人たちを見ていてもそういう風になりそうな人が多い。医学部図書館に置いてある意味はなかなか深いようだ。