ティムバートン似の男について1

eupketcha2006-04-25

ビッグ・フィッシュ」を観て泣きじゃくった日曜日にメイキングを観ながら涙を渇かしているとふと思い出した。私はLAでティム・バートンに似た男に遭遇したことがある。そういえば。


二月一日の夕方成田を発った私は8時間ほど時間を逆行して、同日朝にLA国際空港(LAX)に降り立った。着いていきなり私は途方に暮れた。サンタモニカユースホステル(YH)にはどう行ったらいいのだろうか。既に予約してある。地図も調べてある。しかし、この過度に観光客を誇示するような荷物をもって市バスには乗りたくない。早速の立ち往生。横で怪しげなヒスパニックがこちらを不審気に眺めていた。


YHに電話してみると録音された声がLAXからの行き方を告げていた。録音されているので「パードン?」は無用である。無駄に2回、3回と電話をかけなおしてもあと一歩でその意を介することができない。これから三週間つづくアメリカ旅行に暗雲がたれこめてきた。とりあえず日本人に電話してみよう。LAの法医学者ドクターNとは一週間前、日本で偶然出会っていた。「来週LAに行くのですが」「では着いたらすぐに電話しなさい。」その一言が命綱だ。三十年ほど英語しか使わなかったという先生は最早たどたどしくなってしまった日本語で、電話に応答してくれた。


「サンタモニカ!君は大変いい選択をしましたよ。はい。あそこは大変いいところです。それでは、是非頑張ってたどりついてみてください。それが君の最初の試練です。」なるほど、そういうオチか。「そして明日一日を私にください。Yシャツを持っていないとみっともないので、必ず手に入れておくように。では私はこれで電話を切ります。」


あとから聞いた話だが、LAX周辺は結構治安が悪いらしい。バスを嫌った私の判断は結果的には正しかった。結局30分くらい空港内をうろちょろとしたあと職員っぽい黒人のお兄さんにつたない英語で、シャトルの存在を聞き出した。いきなり20ドルくらいかかったが背に腹は変えられない。客は私1人だった。アメリカに入国してから始めて落ち着いた時間が訪れた。車窓から垣間みる憧れのLAは、太平洋に近い独特の日差しに照らされてか、意外に美しく、そしておそらくアメリカ映画ばかり観てきたせいで、意外に懐かしくもあった。


LAXからハイウェイを飛ばしておよそ30分くらいでビーチの街サンタモニカにたどり着いた。日は高いのに時差ぼけと疲れでやたらと眠い。事務員が1人しかいないせいで、いきなり受付で渋滞を食らう。アメリカに入国して既に3時間くらい経っていた。何て容量が悪いんだ。私は焦りだした。LA滞在期間は3日しかない。そのあいだに色々と行きたいところがある。一日はドクターNが持って行った。残りは今日をいれてあと2日しかない。


サンタモニカYHは厳重である。玄関先と、各部屋と二重のロックがある。海外旅行の初日。遅れをとりもどしたい。英語にまだなれない。はじめてのユースホステル。明日はドクターNに会う。期待と緊張を交えてその部屋の扉にカードキーを通す。ピッと音がなってロックが解除。ドアを開ける。と、その「男」はまさにそこにいたのである。全裸でね。そして確かにティムバートンに似ていたのだ。
次回待て。