「LOFT」(黒沢清)

映画作りの楽しさが、映画そのものの楽しさと直結しているということを毎回黒沢は証明しようとする節を見せるが、今回は全編がその証明に費やされていて、圧巻である。楽しい。映画を観てこんなに楽しかったのは久々だが、この楽しさを共有できる人が限定的だと思えるところは、もどかしい。少なくともこのブログ読者の全員に万遍なく勧められる映画では断じてない。日経に「二度とこういう失敗はしてほしくない」的なコメントが書いてあったのに対しては、(あーなんでこの楽しさがわからないかな畜生!)と思いつつ、まあそういう人もいるんだろうという事実は容易に理解できる。おそらく「CURE」や「カリスマ」のことだけを見てそういうことを言っているわけであって、「勝手にしやがれ」シリーズや、「地獄の警備員」などは見ていないに違いない。どちらかというと、集大成なんだと思う。

以下ネタバレ注意


まあ、別に過去の作品を見ていなくても、この映画は楽しい。前半、実に手際よく周到に、ホラーというジャンルが構築される。そこでは黒沢の恐怖理論と、中谷美紀のおびえ芸逃げ芸の熾烈な戦いがくり広げられる。そのあまりの熾烈さに、ホラー様式美ここに極まれりといった感までするのはさすがである。ところが後半、急にトヨエツがメインになると、今度はトヨエツが自虐的にホラーを否定していくかのような台詞を次々と吐いていき、音をたててジャンルが崩壊するのである。その壮絶さたるや途中で目を覆いたくなる(あるいは笑い転げたくなる)ばかりである。そして驚きの幕引きが、そのジャンル終焉の鐘を鳴らすかのように。


一つの映画の中で、前半で構築されたジャンルが後半で崩壊していくという手法を見て、してやられたと感心するか、どうしてそういうことするかなと憤るかは人それぞれだと思うが、僕は圧倒的に前者であって、だからこそ楽しかった。そしてこういう映画を商業ベースで撮れる黒沢監督は本当に羨ましいと思う。また、トヨエツの名言の中で、「右も死体、左も死体、どこもかしこも死体だらけだ!」という台詞は、将来使う機会があれば使おうと思う。